中国「無人配送車」 実際はどこを走り、何の役に立っているのか
こんにちは、コジマです。
SNSを見ていると、中国の道路を走る小型の「無人配送車」の動画が流れてくることがあります。
運転席もハンドルもない箱型の車両が住宅街を走ったり、狭い道路ですれ違ったり、でこぼこ道を進んだりする映像を見て、
「中国では本当にこんな無人車が普通に走っているの?」
と驚いた人も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、中国では無人配送車の実用化がすでに進んでいます。
ただし、どこでも自由に走っているわけではありません。現在の中心は、物流拠点や産業開発区、郊外など、比較的交通環境を管理しやすい場所です。
さらに2026年には、中国の無人物流車市場をけん引する新石器(Neolix)と九識智能(ZELOS)が、それぞれ異なる方法で事業を急速に拡大しています。
この記事では、中国の無人配送車について、
- どんな場所を走っているのか
- 何のために使われているのか
- 本当に物流コストを減らせるのか
- 無人配送車大手「新石器」と「九識智能」の違い
- 今後どのように普及していく可能性があるのか
というポイントから、2026年9月時点で確認できる情報をもとに詳しく紹介します。
SNSで話題の中国「無人配送車」とは?
中国で普及が進んでいる無人配送車は、一般的な乗用車とは大きく形が異なります。
多くの車両には人が乗るための運転席がなく、車体のほとんどが荷物を積むためのスペースとして使われています。
英語では「RoboVan(ロボバン)」などと呼ばれ、カメラやLiDAR(レーザーセンサー)などを使って周囲の状況を認識し、自動運転で荷物を運びます。
代表的なメーカーのひとつである新石器(Neolix)は、現在の車両についてL4レベルの自動運転に対応すると説明しています。
■ L4(レベル4)とは?
限定された走行条件やエリアの中で、原則としてシステムが運転操作を行う自動運転レベルです。どの道路でも完全に自由に自動運転できるという意味ではなく、設定された運行条件の範囲内で自動走行します。
新石器の公式情報によると、同社の車両は公開道路のほか、園区や物流拠点などでの走行を想定しており、2026年9月時点で世界15カ国・300都市以上に累計1万3,000台以上を展開したとしています。
SNSのような「悪路」を本当に走っている?
SNSでは、無人配送車が段差を乗り越えたり、狭い道路を走ったり、工事現場のような路面を走行したりする映像も見かけます。
ただし、こうした映像を見るときには、実際の配送中の映像とテスト走行の映像を分けて考える必要があります。
無人配送車の開発では、実際の道路だけでなく、さまざまな環境を再現したテスト施設でも走行試験が行われます。
自動運転車にとって確認しなければならないのは、単純な直線道路だけではありません。
- 段差
- 減速帯
- 道路工事
- 路上駐車
- 狭い道路
- 歩行者や自転車の飛び出し
- 雨天時の道路
- 坂道
- 不規則な障害物
など、現実の道路で起こり得るさまざまな状況への対応能力が求められます。
吉林省遼源市では68kmの公道をテスト路線に
実際の道路を使った大規模な走行試験も行われています。
中国・吉林省遼源市では2026年1月、無人物流配送車の道路試験が行われました。
テスト路線には、
- 一級道路:1路線
- 郷級道路:1路線
- 市街地の主要道路:5路線
- 産業園区内道路
などが含まれ、届け出された走行距離は合計68kmとされています。
報道時点では約1,100kmの道路試験を実施し、そのうち自動運転による走行比率は95.9%だったと報じられています。
ポイント
無人配送車は「きれいに整備された未来都市だけ」を走らせるのではなく、道路規格や交通環境が異なる場所でデータを集めながら実用化が進められています。
無人配送車の主戦場は「都心」より物流拠点や郊外
SNSだけを見ていると、「中国では街中のいたるところを無人配送車が走っている」という印象を受けるかもしれません。
しかし、現段階では必ずしもそうではありません。
無人配送車と相性がいいのは、たとえば次のような場所です。
- 経済技術開発区
- ハイテク産業開発区
- 工業団地
- 物流センター周辺
- 宅配営業所周辺
- 物流拠点から小包受取所までのルート
こうした地域には、無人配送車を導入しやすい理由があります。
理由1:配送ルートを固定しやすい
たとえば、
「宅配営業所 → 小包受取所 → 宅配営業所」
といった区間であれば、基本的に同じ道路を何度も往復します。
走行するエリアやルートを限定できるため、無人配送車にとって運行計画を組みやすい環境です。
理由2:人や一般車両が比較的少ない
繁華街では歩行者、自転車、バイク、一般車両などが絶えず複雑に動きます。
一方、物流拠点や工業団地周辺では、場所や時間帯によって交通量を予測しやすくなります。
自動運転を実用化する場合、まずはこうした予測しやすい環境から導入する方が合理的です。
理由3:同じ輸送を何度も繰り返す
物流には、人が毎日何度も同じルートを往復しなければならない仕事があります。
たとえば、
- 営業所から小包受取所への荷物輸送
- 物流センター間の輸送
- 工場内の部材輸送
- 倉庫から店舗への商品補充
- 夜間の拠点間輸送
などです。
こうした「決まった区間を何度も往復する仕事」は、無人配送車の得意分野といえます。
無人配送車は「人をなくす」より「人の移動を減らす」
無人配送車というと、
「将来、宅配ドライバーが必要なくなるのでは?」
と考える人もいるでしょう。
しかし、現時点で確認できる導入事例を見ると、役割は少し違います。
無人配送車が得意としているのは、荷物を「拠点Aから拠点Bへ運ぶ」という工程です。
一方で、
- 個人宅への細かな配送
- 対面での荷物受け渡し
- 集荷
- 荷物の仕分け
- 顧客対応
- トラブルへの対応
など、人が担当した方が効率的な業務は数多く残っています。
そのため現段階では、配送員そのものをなくすというよりも、配送員が単純な往復輸送から離れ、別の仕事に時間を使えるようにする設備と考える方が実態に近いでしょう。
実際に「30%のコスト削減」という事例も
無人配送車は、本当に物流の効率化につながるのでしょうか。
中国・広東省佛山市で、その効果を確認できる具体的な事例があります。
現地メディア「南方+」が2026年8月6日に報じた事例では、ある宅配営業所が2025年8月から、新石器の無人配送車を営業所と小包受取所を結ぶ約3kmの固定ルートで運用しています。
1年間の運用実績をもとにした試算では、
末端配送の総合コスト:約30%減
配送員の往復移動時間:約40%減
とされています。
以前は約1,000個の荷物を運ぶだけでも、配送員が電動三輪車で複数回往復する必要がありました。
無人配送車に拠点間の輸送を任せることで、配送員は空いた時間を集荷や自宅への個別配送などに使えるようになったと説明されています。
つまり重要なのは「何人減らせるか」ではありません。
「人が移動だけに使っていた時間を、ほかの業務へ振り替えられるか」が無人配送車の大きな価値です。
中国の無人配送車市場をけん引する「新石器」と「九識智能」
中国で無人物流車の商用化を進めている代表的な企業として注目されているのが、
- 新石器(Neolix/ネオリックス)
- 九識智能(ZELOS/ゼロス)
の2社です。
どちらもL4クラスの無人物流車を開発していますが、2026年に入り、両社の戦略には違いが見えてきました。
| 項目 | 九識智能(ZELOS) | 新石器(Neolix) |
|---|---|---|
| 特徴 | 自動運転技術と物流ネットワークの拡大 | 車両だけでなく運用・充電インフラまで構築 |
| 2026年の大きな動き | 菜鳥の無人車事業との戦略統合 | 「来電島」による運用インフラ整備 |
| 技術 | L4向け「無図(高精度地図レス)」方案 | L4自動運転+車両・運行システム |
| 方向性 | 新しい地域へ素早く展開する | 無人配送を都市インフラ化する |
九識智能:高精度地図に依存しないL4自動運転へ
九識智能(ZELOS)で特に注目したいのが、2026年7月に発表されたL4向け「無図」自動運転方案の量産化です。
従来、高度な自動運転では、高精度地図を利用して走行する方式が多く採用されてきました。
高精度地図には、一般的なカーナビ用地図よりも細かな道路情報が記録されています。
しかし、運行エリアを拡大するたびにこうした地図を準備・更新する必要があると、車両を新しい地域へ展開する際の負担になります。
九識智能が発表した「無図」方式では、リアルタイムのセンシングとAIによる判断を活用し、高精度地図への依存を減らすことを狙っています。
新しいルートへの導入を「1日以内」に
九識智能は、この方式によって車両の展開期間を1日以内まで短縮できると説明しています。
事前準備が少なくなれば、
- 新しい宅配営業所
- 新しい配送ルート
- 新しい都市
- 新規顧客の物流拠点
などへ無人配送車を導入するスピードを上げることができます。
無人物流車が実験段階から大量導入へ移るほど、この「導入のしやすさ」は重要になります。
九識智能とアリババ系「菜鳥」が戦略統合
九識智能にとって、もうひとつ大きな転機となったのがアリババ系物流企業「菜鳥(Cainiao)」との統合です。
2026年1月29日、九識智能と菜鳥の無人車部門は無人車事業の戦略統合を発表しました。
菜鳥は、
- 自社の無人車事業を九識智能側へ投入
- 現金による出資
- 物流ネットワークや物流現場の活用
などを行い、九識智能の株主となっています。
統合後、菜鳥は自社単独で無人車の生産・販売を行うのではなく、九識智能が「九識智能」と「菜鳥無人車」の2ブランドを運営する形になりました。
Reutersも2026年1月29日、菜鳥の自動運転部門が九識智能との事業統合を進めることを報じています。
この統合の意味
九識智能にとって重要なのは車両台数だけではありません。菜鳥が持つ物流現場や顧客、配送ネットワークとの接点を得られる点が大きな意味を持ちます。
新石器:無人車を「売る会社」から「運ぶ会社」へ
一方、新石器(Neolix)が強く打ち出しているのは、車両そのものだけでなく「無人配送を運用する仕組み」です。
物流会社が無人車を1台購入して自社で運用するだけでは、無人物流を大規模化するには限界があります。
大量の無人車を動かすには、
- 車両管理
- 運行管理
- 充電
- 駐車
- 洗車
- 点検
- 整備
- トラブル対応
まで含めた仕組みが必要です。
新石器は、こうした運用部分まで含めて無人物流のサービス化を進めています。
無人車の「自動充電基地」まで登場
その象徴が、2026年5月8日に中国・青島で運用を開始した「来電島(TIDE-ISLAND)」です。
来電島は、新石器とEV充電インフラ企業の特来電(TELD)などが開発した、無人車向けの自動充電・運営拠点です。
一般的な充電ステーションとは異なり、
- 自動駐車
- 自動充電
- 自動洗車
- 車両点検・メンテナンス支援
- AIによる運行・エネルギー管理
などを一体化しています。
JETROも2026年5月20日、この施設について「無人車自動充電・運営センター」として紹介しています。
つまり、人が運転しなくてもよくなっただけでは、本当の意味での「無人物流」にはなりません。
車両を充電するために毎回人が移動させていては、そこに人手が必要になります。
走る → 戻る → 駐車する → 充電する → 点検する → 再び走る
この一連の流れまで自動化することが、無人物流を大規模化するうえで重要になります。
新石器は世界300都市以上へ展開
新石器の公式サイトによると、2026年9月時点で同社は、
- 世界15カ国
- 300都市以上
- 累計1万3,000台以上
- 累計自動運転走行距離6,000万km以上
の無人車を展開したとしています。
また、物流配送向け車両「X6」については、1回あたり800~1,000個程度の荷物を積載できる仕様としています。
メーカー公表値であることには注意が必要ですが、中国の無人物流車が単なる数台規模の実証実験から、商用展開を意識する段階へ進んでいることは分かります。
新石器と九識智能の競争は「台数」だけではない
無人配送車市場では今後、
「何台売ったのか」
という数字が注目されるでしょう。
しかし、本当に重要なのは、車両台数だけではありません。
物流会社が無人配送車を導入する目的は、無人車を所有することではなく、より少ない負担で確実に荷物を運ぶことだからです。
そのため今後は、
- 1台あたり何時間稼働できるか
- 1日何便運行できるか
- どれだけ人の作業を減らせるか
- トラブル発生時にどれだけ早く復旧できるか
- 充電・整備をどれだけ自動化できるか
- 新しい地域へどれだけ早く導入できるか
- 1個の荷物を運ぶコストをどこまで下げられるか
といった「運行効率」と「収益性」がより重要になっていくと考えられます。
中国の無人配送車は今後どうなる?
中国の無人配送車は、いきなりすべての宅配ドライバーを置き換える技術ではありません。
現時点で現実的なのは、物流工程の中から「無人車に任せやすい部分だけを切り出す」使い方です。
たとえば、
物流センター
↓
宅配営業所
↓
小包受取所・店舗・オフィス
↓
最終的な個人宅配送は配送員
という物流網であれば、途中の拠点間輸送を無人車に任せることができます。
すべてを無人化しなくても、毎日何百回、何千回と発生する単純な往復作業を自動化できれば、物流全体では大きな効率化につながります。
その意味で無人配送車は、
「人間の配送員に代わるロボット」
というより、
「物流システムの中に新しく追加される輸送設備」
として見る方が、現在の姿を理解しやすいでしょう。
まとめ:中国の無人配送車は「実験」から「物流インフラ」へ
今回は、SNSでも話題になる中国の無人配送車について紹介しました。
- 中国ではL4クラスの無人配送車の商用利用が進んでいる
- 現在の中心は、郊外・物流拠点・産業園区など比較的運行しやすいエリア
- 吉林省遼源市では68kmに及ぶ道路を使ったテストも実施
- 佛山市の事例では末端配送コスト約30%減、配送員の移動時間約40%減と報告
- 九識智能は高精度地図への依存を減らすL4自動運転技術を量産化
- 九識智能は2026年1月にアリババ系「菜鳥」の無人車事業と戦略統合
- 新石器は車両販売だけでなく充電・運行管理を含む物流インフラへ事業を拡大
- 今後は「何台走っているか」以上に稼働率・コスト・収益性が重要になる
SNSでは、悪路を走ったり狭い道で立ち往生したりするインパクトのある映像が注目されがちです。
しかし、その裏側で進んでいるのは、もっと地道な物流工程そのものの再設計です。
人間が1日に何度も繰り返してきた単純な拠点間輸送を無人車に任せ、その間に配送員は集荷や個別配送を行う。
さらに、車両が自分で走るだけでなく、充電や点検、運行管理まで自動化していく。
中国の無人配送車市場は、単純に「自動運転技術のすごさ」を競う段階から、物流の現場でどこまで実用的な輸送手段になれるのかを競う段階へ進み始めています。
今後、新石器や九識智能の無人配送車が中国の都市物流にどこまで入り込んでいくのか、引き続き注目したいところです。
参考資料
- 新石器(Neolix)公式サイト(2026年9月25日確認)
- 九識智能(ZELOS)公式発表「九識と菜鳥の戦略統合」(2026年1月29日)
- Reuters「Alibaba’s logistics arm to buy stake in Chinese robovan developer Zelostech」(2026年1月29日)
- 人民網・遼源市無人物流車道路試験に関する報道(2026年1月16日)
- 南方+・佛山市における無人配送車導入事例(2026年8月6日)
- JETRO「無人車自動充電・運営センター『来電島』が運用開始」(2026年5月20日)
- 新華網「特来電×新石器『来電島1号』」(2026年5月9日)
- 九識智能L4無図自動運転方案に関する発表・報道(2026年7月17日)
※本記事は2026年9月25日時点で公開されている企業発表および報道をもとに作成しています。各企業が発表している走行距離、導入台数、効率化効果などには企業側による公表値も含まれます。